浄土真宗本願寺派 総長
石上智康
アジア・太平洋戦争の終結から、本年で70年目を迎えました。先の大戦によって犠牲になられた世界中のすべての皆さまに対し、あらためて衷心より哀悼の意を表します。また、大切な方を失った方々の悲しみは、今現在も癒えることがありません。戦争は遠い未来の人々にまで、深い苦しみを与えるのです。
約2500年前、釈尊は「己が身にひきくらべて、殺してはならぬ。殺さしめてはならぬ」と説かれました。しかし、今なお私たちは、自分の都合の良いものには愛着を抱き、不都合なものには憎しみを抱くという、自己中心的な生き方をしています。共にかけがえのない命を受けながら、他者を認めることができず、争いあっているのです。いかなる戦争も、必ず、多くの命を奪います。そして、人と人が命を奪いあうことほど愚かなことはありません。
非戦・平和こそ人類の進むべき道です。
大谷光真前門主は、1997年3月20日、本山・本願寺における基幹運動推進・御同朋の社会をめざす法要で、「すべてのいのちの尊厳性を護ること、基本的人権の尊重は、今日、日本社会の課題にとどまらず、人類共通の課題であり、世界平和達成への道でもあります」と述べられました。私たちは「いのちの尊厳性」が平和実現のキーワードであることを、今こそ認識すべきであります。
また、大谷光淳門主は、2015年7月3日、広島平和記念公園における平和を願う法要で、「人類が経験したこともなかった世界規模での争いが起こったあと、70年という歳月が、争いがもたらした深い悲しみや痛みを和らげることができたでしょうか。そして、私たちはそこから平和への願いと、学びをどれだけ深めることができたでしょうか」と述べられました。
現在、日本では、我が国の平和と安全保障を巡って、国会のみならず、全国各地で厳しい議論がおこなわれていますが、多くの国民が納得できるよう、十分な説明と丁寧な審議が尽くされることを願っております。私たち浄土真宗本願寺派でも、先の戦争の遂行に協力した慚愧すべき歴史の事実から目をそらすことなく、念仏者がどのように恒久平和に貢献しうるかについて、研究を重ねてきました。近々に、その成果≪平和に関する論点整理≫を中間報告として公表する予定です。これを機に、宗門内外の方々と共々に学びを深めることができれば幸いです。
戦後70年を経た今、私たちは過去の戦争の記憶を風化させることなく、仏の智慧に導かれる念仏者として、すべての命が尊重され、自他共に心豊かに生きることのできる社会の実現に貢献すべく、歩みを進めてまいります。
2015(平成27)年8月10日