最後のご挨拶


九十歳を過ぎた男性が玄関で家族とご一緒に、ご法事が終わるのを待たれていた。
「お待たせしました」と会釈をすると、しっかりとした口調で「お忙しいところすみません。今日はご住職に最後のご挨拶にまいりました。」と切り出された。
「私は二年前から入退院を繰り返して、今月ようやく家に帰ってきました。今後も入院をしなければなりません。
こうしてお寺にお参り出来るのも最後だと思います。今後お寺のことや仏事はこの若い者がきちんとしていきますので、よろしくお願いします。
ご住職、本当に長い間、お世話になりました。」
こんなご挨拶は初めてなので、どう答えていいのか、言葉が出てこなかった。
「それは大変でした。辛かったでしょう。いのちのことは、誰にもわかりませんが、精一杯お念仏をいただいて過ごしましょうね。そして、またお会いしましょうね。ご丁寧にありがとうございました。」
住職の一筆 『いのち毎日あたらしい』 をさしあげて、お姿が見えなくなるまでお見送りをした。
私には「お念仏のみ教えをしっかりとこの家族に伝えてください。」ご家族には「お寺とのご縁を大切にするんだよ」というお心が感じられた尊いご挨拶だった。