この本の副題には「ヒトノイッショウハ汽笛トトモニアル」とあります。大澤榮氏の詩集ですが、この詩集の実に3分の1を占める50頁余が、「詩束対雁茫々(ついしかりぼうぼう) 」として、樺太アイヌ強制移住にかかわる詩と散文が載せられております。「…ダイナミックな律動を口にしながら、北の大地を彷徨(さまよ)い、深い闇の記憶を汲み上げている」大澤氏は、現在恵庭市漁川の袂(たもと)に住み、北海道文教大学で精神看護学領域の教授として活躍されている方です。
平易な言葉で物語性のある詩は、難解な現代詩を読むのとは異なり、すぐに引き込まれてしまいます。「人生の踏切(ふみきり)」に聞く汽笛と共に、強烈に惹きつける人名と固有名詞に突き当ります。アウシュヴィッツ博物館、萱野茂と二風谷アイヌ資料館、小樽文学館と小林多喜二、べてるの家、小熊秀雄と長々忌(じゃんじゃんき)、そして対雁の碑へと続くのです。
江別駅から眞願寺まで歩いて辿る空は
箒で掃いたような彼岸の香を匂わせていた
伺った石堂了正和尚の講話では
札幌の地で見つかった
眞願寺落成を写した当時の写真の紹介と
そこに参集している
樺太アイヌの人びとの息遣いが
動かし難い移住の足あととして呼吸をして
いるものであった
そこから碑(イシブミ)に向かうわたしは
和尚から手書きの地図をいただいて
寺から真っ直ぐに磁石を取って歩いた
その道すがら信号の表示プレートには
「対雁(ツイシカリ)」と刻されていて
その信号を渡った直後から
以下略