老婦人をのせた一台の車が、境内に入ってきました。手渡されたのが、次に記す一通の手紙であります。ここには次のようなことが記されておりました。
住職様
いつもお世話になっている○○です。時報「響」をいただいて、有難く読ませて頂いております。主人の命日には、いつもお参りいただいて感謝申し上げております。
自分は足と腰が悪いので歩行器がたよりで、杖だけでは、ころびそうになるので、駄目なのです。
今日は次男がお参りしたいのなら、会社が休みだから、連れていってくれると言うので、頼んでお参りさせてもらいます。写真とまた違う、お寺への有難さを感謝して帰ります。今後ともよろしくお願い申しあげます。
手紙を私に渡して「立派になったお寺を外から眺めただけで充分結構です」と言って、立ち去ろうとするではありませんか。そこで私は車椅子やエレベータのあることなどを説明し、中に入っていただいたのであります。そして、本堂や一處廟・第二納骨堂等々を案内いたしたのでありますが、車椅子を押す、優しい息子さんの顔がなんと輝いて見えたことか。そして、息子さんに語りかける、母親への言葉にどれほど胸を打たれたことか。
かつて私は、母親に対して、これほどまでに優しく接したことが、あったであろうか。得体の知れない哀しみと共に、頬を伝う涙に私は戸惑っておりました。晴れやかな笑顔で、住職様によろしくと言って、息子さんと共に山門を出ていかれたのであります。