今回は「老々介護」森岡恭子著を紹介します。
著者の森岡恭子さんは、市内在住の主婦であり、眞願寺の門徒でもあります。
まえがきで「老人人口の仲間入りをした私達夫婦は、揃って癌の手術をした。それでもなお、超高齢の姑(はは)と共に暮らしたい想いのところで…」と書いております。
置かれた厳しさの中での『老々介護』の日々と、またカウンセラーとして昼夜を分かたぬ電話相談の仕事、佛教ホスピスのビハーラ活動等々、まさに縦横無尽のご活躍を記した心の記録でもあります。「よくもまあ、これほどまでに…」と、読了しての率直な感想であります。
これっぽっちも、じめじめした所がありません。硬質の文体と、いつでもプラス志向の楽天性が、読む者に深い感銘を起こさせるものだと思います。「姑と暮らした40年があったから、この本が出来たことに想いが至って墓誌に刻まれない姑の姿をこの本に残したくなっていることに気がついたのです」と、記す著者ですが、本書は二部構成で、第2部の終章には、姑の贈り物というタイトルで寝返りの出来ない時の枕の使い方《森岡式寝たきりになっても床ずれができずに長時間安らかに眠れる方法》が紹介され、「姑が95歳の生涯で、6年近い不自由な寝たきりの中で、多くの人に『安らかな眠り』を残してくれたのだ。姑の『寝たきりで世話ばかり掛けて済まない』は決して『済まない』ではなかった。姑のこの贈り物にどんなに感謝してもしきれない。おばあちゃん、ありがとう」と書かれておるのです。
著者のお許しを得ましたので、少しでも多くの方の安眠と、介護の苦労軽減のために、図解による褥瘡(じょくそう)防止と、改善方法のごく一部を転載して紹介させていただきます。
臥位に於ける褥瘡防止及び改善の方法
-体動不能(寝返りの出来ない)時の枕の使い方-
《森岡式・寝たきりになっても床ずれができずに長時間、安らかに眠れる方法》
森岡 恭子
褥瘡(じょくそう)の発生の直接原因は
持続性圧迫による阻血性壊死 である
褥瘡は一定の場所に一定の圧力が一定時間加わり続けることにより、局所の皮膚の血流が途絶え、阻血性の壊死が生じて発症する皮膚潰瘍である。
何らかの理由により、自動的に除圧が出来ない場合(知覚神経障害、運動麻痺、運動障害など)は、介助による他動的除圧の方法をとらなければ、褥瘡の発生を防ぐことはできない。
高齢社会の到来、疾病構造の変化などから老人が老人の介護をするケースが増えている。褥瘡の予防は2時間ごとの体位変換がその発生機序から当然のことであるが、される側も安眠を妨げられることに課題を感じていた。褥瘡発生機序(しくみ)の理論と枕の素材の多様性に着目して全くの発送の転換が閃いた。
1999年8月、90歳の羸痩(るいそう・衰えやせること)顕著、寝返り不能な姑(はは)に体重の分散を図り、3時間・5時間・12時間の同一体位で発赤は皆無であった。
又脊椎圧迫骨折6個の筆者が心カテ、PTCAの6~18時間の固定体位でこの方法を用い、苦痛の軽減を図ることができたので、褥瘡の発生の原因である阻血性壊死を来す部分的圧力を軽減し、長時間同一体位で褥瘡の発生を来さない方法を開発することができた。更に、踵(かかと)、外踝(そとくるぶし)の褥瘡に対して、小型の円座を用いてきたが、局部を挙上し空間を作り除圧するが、周囲に圧がかかり、必ずしも最適の方法とは言えなかった。この度、下肢全体の重さを分散させる事によって、踵及び外踝の除圧に成功した。
この度身体各部の体重の分散による、部分的圧迫の解消→阻血性の壊死の発生防止したばかりでなく、既に褥瘡発症例の改善の報告も聞かれたので、看護及び介護は実践の科学であり、必要とする全ての人々の幸せのためにこそあると思うので、広く活用されることをねがい、誰もが実践できる具体的な方法をポイントをあげながら解説する。
完全全身蕎瘡予防及び改善の体位
【必要部品】
- パイプ枕 5個~7個
- 構造…基本型(M型)50cm×40cm位 大きめの方が腕を載せる余裕が出来る
パイプ…柔らかタイプ
パイプの量…2分の1~5分の3(1~1.1kg・患者の体型により調整)大きすぎ・長すぎはパイプが偏り、扱い難い。
袋…柔らかメッシュ(布カバーがないほうが馴染みがよい・丸ごと洗濯可能)
利点…通気性が良いこと。適度な指示感、どの様な形にも変形可能で身体の轡曲や丸み凹みに密着して隙間を作らない。(フィットする)
- 構造…30cm×35cm位 楕円形 厚さ10cm位
内容…化学繊維わた 150g(丸ごと洗濯可能)
【方法】
必要部品を患者の周囲(予定位置)に揃える。
患者を側臥位(横向き)にする。(下肢屈曲可能・不能な場合は膝を立てない方法)
●始める前に声をかける。(内力の発生)
●腕の組ませ方
・向く側の患者の掌に介護者の掌を載せ、握手の状態で肘を軽く曲げ、他方の手で患者の肘を対側の肩に向けて押す。他方の腕も同様にして胸の上に組ませる。対側の上肢が残ると躰幹(胴体)の回転が起き難い。
・(腕は向く側下、対側上)必ず守ること。両膝を引き寄せて出来るだけ高く立てる。両膝を揃えて倒す。(躰幹の大部分が回転)次に肩を起こす。
・トルクの法則により倒した下肢で全体に安定していて手を放しても倒れないので、両手を使うことが可能。
・但し介助者は患者から身体を離さない。(患者が安心できる)
介助者は患者から身体を離さないで、両手を使うことが可能。